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東京地方裁判所 昭和62年(行ウ)131号 判決

東京都文京区千駄木5丁目18番7号

原告

鈴木千代子

東京都文京区本郷4丁目15番11号

被告

本郷税務署長 中村匡四郎

右指定代理人

武田みどり

外3名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は,原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和59年2月22日付けでした次の各処分を取り消す。

(一) 原告の昭和55年分所得税の更正及び過少申告加算税賦課決定

(二) 原告の昭和56年分所得税の更正のうち分離課税の長期譲渡所得の金額が243万3,233円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定

(三) 原告の昭和57年分所得税の更正のうち分離課税の長期譲渡所得の金額が622万9,970円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定

2  被告が昭和61年1月31日付けでした原告の昭和59年分所得税の決定及び無申告加算税賦課決定(ただし,平成2年1月31日付け更正及び無申告加算税再賦課決定により減額された後の部分)を取り消す。

3  訴訟費用は,被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告の昭和55年分所得税について,原告は法定申告期限内に別表一の一の①のとおり確定申告をしたところ,これに対し,被告は同表の②のとおり更正(以下「55年分更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下「55年分賦課決定」といい,55年分更正と併せて「55年分各処分」という。)をした。55年分各処分に対して原告がした不服申立て及びこれに対する応答の経緯は同表の③ないし⑥のとおりである。

2  原告の昭和56年分所得税について,原告は法定申告期限内に別表一の二の①のとおり確定申告をしたところ,これに対し,被告は同表の②のとおり更正(以下「56年分更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下「56年分賦課決定」といい,56年分更正と併せて「56年分各処分」という。)をした。56年分各処分に対して原告がした不服申立て及びこれに対する応答の経緯は同表の③ないし⑥のとおりである。

3  原告の昭和57年分所得税について,原告は法定申告期限内に別表一の三の①のとおり確定申告をしたところ,これに対し,被告は同表の②のとおり更正(以下「57年分更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下「57年分賦課決定」といい,57年分更正と併せて「57年分各処分」という。)をした。57年分各処分に対して原告がした不服申立て及びこれに対する応答の経緯は同表の③ないし⑥のとおりである。

4  原告の昭和59年分所得税について,原告が確定申告をしなかったところ,被告は,別表一の四の①のとおり所得税の決定及び無申告加算税賦課決定をした。右各決定に対して原告がした不服申立て及びこれに対する応答の経緯は同表の②ないし⑤のとおりであり,また,その後に被告がした更正及び無申告加算税再賦課決定は同表の⑥のとおりである(以下,同表の①の所得税の決定のうち,同表の⑥の更正により減額された後の部分を「59年分所得税の決定」と,同表の①の無申告加算税賦課決定のうち,同表の⑥の無申告加算税再賦課決定により減額された後の部分を「59年分賦課決定」といい,59年分所得税の決定及び59年分賦課決定を併せて「59年分各処分」という。)

5  55年分更正,56年分更正,57年分更正及び59年分所得税の決定は,いずれも右各年分の原告の所得を過大に認定してされたものであるから違法であり,右各更正及び所得税の決定を前提とする55年分賦課決定,56年分賦課決定,57年分賦課決定及び59年分賦課決定も違法である。

6  よって,原告は,55年分各処分,56年分各処分,57年分各処分及び59年分各処分の取消しを求める。

二  請求の原因に対する認否

請求の原因1ないし4は認め,同5及び6は争う。

三  抗弁

1  原告の昭和55年分,昭和56年分,昭和57年分,昭和59年分の各所得税に係る所得は,いずれも分離課税の長期譲渡所得であり,その金額算出の根拠は次のとおりである。

(一) 昭和55年分

(1) 譲渡収入金額 4,821万6,350円

原告は,昭和37年から昭和43年までの間に取得した別表二の一の各土地を,同表のとおり,昭和55年中に代金合計4,821万6,350円で譲渡した(以下「55年分譲渡」という。)。

(2) 取得費 241万0,817円

租税特別措置法(以下「措置法」という。)31条の4第1項(昭和63年法律第4号による改正前のもの)に準じて,右(1)の譲渡収入金額に100分の5を乗じて算出した金額である。

(3) 譲渡費用 18万1,500円

原告が55年分譲渡に係る譲渡費用として支払った別表三の一の金額である。

(4) 特別控除額 100万円

措置法31条2項(昭和57年法律第8号による改正前のもの)の特別控除額である。

(5) 長期譲渡所得金額 4,462万4,033円

右(1)の譲渡収入金額から右(2)ないし(4)の各金額を差し引いた金額である。

(二) 昭和56年分

(1) 譲渡収入金額 3,360万円

原告は,昭和37年から昭和43年までの間に取得した別表二の二の各土地を,同表のとおり,昭和56年中に代金合計3,360万円で譲渡した(以下「56年分譲渡」という。)。

(2) 取得費 168万円

措置法31条の4第1項(昭和63年法律第4号による改正前のもの)に準じて,右(1)の譲渡収入金額に100分の5を乗じて算出した金額である。

(3) 譲渡費用 114万6,200円

原告が56年分譲渡に係る譲渡費用として支払った別表三の二の合計額である。

(4) 特別控除額 100万円

措置法31条2項(昭和57年法律第8号による改正前のもの)の特別控除額である。

(5) 長期譲渡所得金額 2,977万3,800円

右(1)の譲渡収入金額から右(2)ないし(4)の各金額を差し引いた金額である。

(三) 昭和57年分

(1) 譲渡収入金額 6,164万7,000円

原告は,昭和37年から昭和43年までの間に取得した別表二の三の各土地を,同表のとおり,昭和57年中に代金合計6,164万7,000円で譲渡した(以下「57年分譲渡」という。)。

(2) 取得費 308万2,350円

措置法31条の4第1項(昭和63年法律第4号による改正前のもの)に準じて,右(1)の譲渡収入金額に100分の5を乗じて算出した金額である。

(3) 譲渡費用 641万8,885円

原告が57年分譲渡に係る譲渡費用として支払った別表三の三の金額である。

(4) 特別控除額 100万円

措置法31条3項(昭和62年法律第96号による改正前のもの)の特別控除額である。

(5) 長期譲渡所得金額 5,114万5,765円

右(1)の譲渡収入金額から右(2)ないし(4)の各金額を差し引いた金額である。

(四) 昭和59年分

(1) 譲渡収入金額 1,200万円

原告は,昭和37年から昭和43年までの間に取得した別表二の四の土地を,同表おとおり,昭和59年中に和光開発株式会社(以下「和光開発」という。)に対する借入金債務1,200万円の代物弁済として,和光開発に譲渡した(以下「59年分譲渡」という。)ので,右代物弁済により消滅した債務額1,200万円と同額の譲渡収入が生じた。

(2) 取得費 60万円

措置法31条の4第1項(昭和63年法律第4号による改正前のもの)に準じて,右(1)の譲渡収入金額に100分の5を乗じて算出した金額である。

(3) 特別控除額 100万円

措置法31条3項(昭和62年法律第96号による改正前のもの)の特別控除額である。

(4) 長期譲渡所得金額 1,040万円

右(1)の譲渡収入金額から(2)及び(3)の各金額を差し引いた金額である。

2  55年分更正,56年分更正及び57年分更正に係る各長期譲渡所得金額は,いずれも右1の(一)ないし(三)の右各年分の原告の各長期譲渡所得金額の範囲内であり,また,59年分所得税の決定に係る長期譲渡所得金額は,右1の(四)の昭和59年分の原告の長期譲渡所得金額と同額であるから,55年分更正,56年分更正及び57年分更正並びに59年分所得税の決定は適法である。

3(一)  55年分更正に基づいて原告が納付すべき税額は857万5,000円(昭和59年法律第5号による改正前の国税通則法118条3項により1,000円未満の端数切捨て)であるから,右改正前の同法65条1項により右税額に100分の5の割合を乗じて算出した過少申告加算税の額42万8,700円(右改正前の同法119条4項により100円未満の端数切捨て)を賦課した55年分賦課決定は適法である。

(二)  56年分更正に基づいて原告がさらに納付すべき税額は475万7,000円(昭和59年法律第5号による改正前の国税通則法118条3項により1,000円未満の端数切捨て)であるから,右改正前の同法65条1項により右税額に100分の5の割合を乗じて算出した過少申告加算税の額23万7,800円(右改正前の同法119条4項により100円未満の端数切捨て)を賦課した56年分賦課決定は適法である。

(三)  57年分更正に基づいて原告がさらに納付すべき納税は978万1,000円(昭和59年法律第5号による改正前の国税通則法118条3項により1,000円未満の端数切捨て)であるから,右改正前の同法65条1項により右税額に100分の5の割合を乗じて算出した過少申告加算税の額48万9,000円(右改正前の同法119条4項により100円未満の端数切捨て)を賦課した57年分賦課決定は適法である。

(四)  59年分所得税の決定に基づいて原告が納付すべき税額は201万円(国税通則法118条3項により1万円未満の端数切捨て)であるから,昭和62年法律96号による改正前の同法66条1項により右税額に100分の10の割合乗じて算出した無申告加算税の額20万1,000円を賦課した59年分賦課決定は適法である。

四  抗弁に対する認否及び原告の主張

1(一)(1) 抗弁1の(一)の(1)及び(2)は認める。

(2) 同(3)は否認する。原告は,55年分譲渡に係る譲渡費用として別表四の一の合計額216万0,404円を支出した。

(3) 同(4)は認める。

(4) 同(5)は争う。

(5) 主張

ア 原告は,原告の夫であった鈴木四郎(昭和42年8月に死亡)が代表者を務めていた株式会社鈴木牧場(以下「鈴木牧場」という。)の債務を弁済するため,昭和45年に自己所有の資産を譲渡したことに伴う同年分の所得税を納付するに当たり,当時の原告の住所地を所轄する浅草税務署の係官から「会社(鈴木牧場)を閉鎖するときには面倒をみる」との約束をしてもらい,その後,昭和54年分所得税の申告納付の際,本郷税務署の係官に右の経緯を説明して,同年分の所得税を納付する代わり昭和55年分所得税の納付を要しないとの合意を同係官とした上で,昭和55年分所得税の確定申告に及んだのであるから,昭和55年分各処分は右合意に反し,違法である。

イa 原告は,55年分譲渡に係る譲渡収入金額のうち915万5,800円を,鈴木牧場の清水利春に対する借入元利金債務の弁済に充てた。

b また,原告は,鈴木牧場が東京信用保証協会の保証の下に金融機関から借り入れた金員を同信用保証協会が代位弁済することにより生ずべき求償債務につき,同信用保証協会に連帯保証していたところ,55年分譲渡に係る譲渡収入金額のうち2万円を,右連帯保証債務の弁済に充てた。

c さらに,原告は,鈴木牧場の事業資金に充てるため,和光開発から金員の借入れをしていたところ,55年分譲渡に係る譲渡収入金額のうち3,504万6,800円を右借入元利金債務の弁済に充てた。

d 鈴木牧場は,何らの資産をも有さず,現在は休業状態で事業再開の見込みもないので,原告は鈴木牧場に対し,右aないしcの各弁済に伴う求償権を行使することができない。

e 原告が55年分譲渡をしたのは,右aないしcの債務の弁済のためであるから,所得税法64条2項,1項より,求償権を行使することができないこととなった右aないしcの弁済額の合計額4,422万2,600円に相当する金額に対応する部分の所得はなかったものとして,原告の譲渡所得を計算すべきである。

(二)(1) 抗弁1の(二)の(1)及び(2)は認める。

(2) 同(3)のうち,別表三の二の1ないし3は認め,その余は否認する。原告は,56年分譲渡に係る譲渡費用として別表四の二の合計額1,331万7,015円を支出した。

(3) 同(4)は認める。

(4) 同(5)は争う。

(5) 主張

ア 原告は,鈴木牧場の事業資金に充てるため,和光開発から金員の借入れをしていたところ,56年分譲渡に係る売却代金のうち,2,342万8,590円を右借入元利金債務の弁済に充てた。

イ 鈴木牧場は,何らの資金をも有さず,現在は休業状態で事業再開の見込みもないので,原告は鈴木牧場に対し,アの弁済に伴う求償権を行使することができない。

ウ 原告が56年分譲渡をしたのは,アの債務の弁済のためであるから,所得税法64条2項,1項により,求償権を行使することができないこととなったアの弁済額2,342万8,590円に相当する金額に対応する部分の所得はなかったものとして,原告の譲渡所得を計算すべきである。

(三)(1) 抗弁1の(三)の(1)及び(2)は認める。

(2) 同(3)のうち,別表三の三の1及び3は認め,その余は否認する。原告は,57年分譲渡に係る譲渡費用として別表四の三の合計額5,103万4,304円を支出した。

(3) 同(4)は認める。

(4) 同(5)は争う。

(四)(1) 抗弁1の(四)の(1)は否認する。代物弁済契約による土地の譲渡については,代金の授受がないので,譲渡所得発生の前提である譲渡収入が存在しない。

(2) 同(2)ないし(4)は否認する。

(3) 主張

原告が和光開発に別表二の四の土地を代物弁済したことによって消滅したものとされた借入金債務の額は700万円であるが,右代物弁済時までに,原告の和光開発に対する借入金債務は,原告の弁済により全額消滅していたから,右代物弁済契約は無効である。

2 抗弁2及び3は否認する。

五  原告の主張に対する認否及び被告の主張

1(一)(1) 抗弁に対する認否及び原告の主張1の(一)の(5)のアは否認する。

(2) 同イのうち,bは認め,その余は否認する。

(二) 主張

所得税法64条2項,1項の規定は,民法446条又は454条所定の債務の履行その他これに準ずる不可分債務の債務者の履行,物上保証人による債務の履行等があって,その履行に伴う求償権が生ずることとなる場合に適用されるものであるが,抗弁に対する認否及び原告の主張1の(一)の(5)のイのa及びcの各事実は,原告が55年分譲渡に係る譲渡収入をもって鈴木牧場を主債務者とする自己の保証債務を弁済したというものではないから,右要件に該当しない。

また,所得税法64条2項は,保証債務の履行をした保証人が,主債務者に対する求償権を行使することにより最終的負担を免れ得るとの期待を抱いたにもかかわらず,予期に反して求償権を行使することができず,最終的負担を余儀なくされた場合に,譲渡所得がなかったものとしてこれに課税することを差し控えようとするものであるから,求償権の行使が不能であることを知りながら敢えて保証した場合のように,最初から求償を前提としていないようなときは,同項の適用はないものというべきところ,仮に,抗弁に対する認否及び原告の主張1の(一)の(5)のイのa及びcの各事実が,実質的に,原告が鈴木牧場を主債務者とする借入金債務についての保証人であり,保証債務の弁済として右借入金の支払をしたという趣旨であったとしても,右の借入当時,既に鈴木牧場は,実質的に倒産状態にあり,原告は,当初から求償が不能と知りながら保証したものであるから,同項の適用はない。

なお,抗弁に対する認否及び原告の主張1の(一)の(5)のイのbの保証債務の弁済は,その弁済額に照らして,右保証債務の履行のために55年分譲渡をしたものとは認められないから,同様に所得税法64条2項の要件に該当しない。

2 抗弁に対する認否及び原告の主張1の(二)の(5)は否認する。同アの事実が,所得税法64条2項の要件に該当しないことは,右1の(二)と同様である。

3 同(四)の(3)は否認する。

第三証拠関係

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから,これを引用する。

理由

一  請求の原因1ないし4は当事者間に争いがない。

二  原告は,昭和45年分所得税の納付の際に浅草税務署の係官とした約束に基づき,昭和54年分の所得税の申告納付の際,本郷税務署の係官との間で同年分の所得税を納付する代わり昭和55年所得税の納付を要しない旨の合意をした上で,同年分所得税の確定申告に及んだものであるところ,55年分各処分は,右合意に反するものであるから違法であると主張する。

しかしながら,原告本人尋問の結果によっても,原告主張の成立を認定するには十分でなく,他に右合意を認めるに足りる証拠はない。

また,租税の賦課徴収及び減免については,法律の定めるところによらなければならないから,課税庁と納税者との間に法律の規定に沿わない合意が存在しても,その合意は一般に効力を持ちえず,ただ,納税者がその合意を信頼し,その信頼に基づいた行為をし,しかもその信頼が保護に値するなどといった特別の事情があるときに限り,その合意の効力を認める余地があるものと解するのを相当とするところ,原告の右主張だけでは右特別の事情として十分とはいえないから(また,本件証拠によるも,右特別の事情を窺わせるに足りる事実を認めることはできない。),税務署係官と原告との間に原告主張の合意が存在しても,その効力を認める余地はない。

したがって,原告の右主張は,いずれにせよ採用することはできない。

三  そこで,昭和55年分,昭和56年分,昭和57年分及び昭和59年分の原告の分離課税の長期譲渡所得金額について検討する。

1  昭和55年分

(一)  譲渡収入金額,取得費及び特別控除額

抗弁1の(一)の(1),(2)及び(4)は当事者間に争いがない。

(二)  譲渡費用

(1) 測量費等

ア 成立に争いのない乙第6号証,原告本人尋問の結果により成立の真正を認め得る甲第25号証の2,第67号証の2及び右尋問結果並びに弁論の全趣旨によれば,55年分譲渡に関し,右譲渡に係る土地の測量費等として,原告が赤塚雄馬測量士(以下「赤塚測量士」という。)に対して,①昭和55年7月22日に16万0,300円,②同年12月25日に2万1,200円の合計18万1,500円を支払った事実を認めることができる。右測量費等は,55年分譲渡のために要した費用として,右譲渡に係る譲渡所得の計算上,譲渡収入金額から控除すべきである。

イ 原告は,55年分譲渡をするに当たって,赤塚測量士に対して69万4,870円の測量費等を支払った旨主張する。

ところで,本件では,原告は右測量費等のほか,種々の譲渡費用を主張しているので,これら譲渡所得に係る譲渡費用の立証責任について一言するに,譲渡費用がその性質上消極額に属するからといって,そのことだけでその立証責任を原告(納税者)に負わせるのは相当ではなく,やはり通常の必要経費と同様,その存否及び額につきその立証責任は被告(課税庁)にあると解するのが相当である。しかし,その具体的な事情については,一般に原告が知悉していることであって,被告としては原告の指摘なしに把握が不可能なことが多いから,原告が被告主張の譲渡費用の額を超える額の支出額を主張してその認容を求めるには,原告はその主張額が譲渡費用に当たるとする右の具体的な事情を指摘することを要するというべきであり,そのような指摘がなく,あるいはその指摘が不十分であるときは,原告にこれを指摘させるまでもない場合又は原告にこれを指摘させることが酷であるとする特段の事情がある場合は格別,そうでない限り,原告主張額はこれを存在しないものと扱うほかはないと考える。このような見地に立って以下判断する。

しかして,右測量費等の支払の主張については,原告本人尋問の結果により成立の真正を認め得る甲第67号証の1(原告作成の赤塚測量士に対する支払明細書)には,原告が赤塚測量士に対し,55年分譲渡に関して,①昭和55年7月22日に16万0,300円,②昭和54年2月26日に5万3,400円,③同年4月16日に13万8,600円,④同年6月14日に7万1,500円,⑤昭和56年12月17日に10万9,600円,⑥同日に9万0,400円の合計62万3,800円を支払った旨の記載があり,原告の右主張はこれを指すものと解されるところ(したがって,原告の右主張のうち右の62万3,800円を超える部分は,内容が不詳で,存在しないものと見るほかはない。),前掲甲第67号証の2及び原告本人尋問の結果によれば,右①は右アの①と同一の支払であると認められるが,②ないし⑥については,右甲第67号証の2,原本の存在及びその成立に争いのない乙7号証,第12号証の2,原告本人尋問の結果により成立の真正を認め得る甲第12号証の2及び4,第26号証の1,第71号証の1ないし3及び5,弁論の全趣旨により成立の真正を認め得る甲第26号証の3並びに右尋問結果によれば,原告がそれぞれ右各年月日ころ赤塚測量士に右各金額を支払った事実は認められるものの,いずれも右各支払額が55年分譲渡に係る譲渡費用に当たることについては,これを理由づける具体的な事情の主張もなく,右事情を窺わせる証拠も全くない(なお,右⑤,⑥については,後述のとおり,右⑤は57年分譲渡及び原告の昭和58年分の土地譲渡に係る譲渡費用と,また,右⑥は56年分譲渡に係る譲渡費用であるものと認められる。)。

そうすると,原告の右主張に係る支払額は,右アの支払額を超えては,55年分譲渡に係る譲渡費用ではないというほかはない。

(2) 契約立会礼金

原告は,55年分譲渡に係る譲渡費用として,和光開発に対して43万3,690円の契約立会礼金を支払った旨主張するが,右事実を認めるに足りる証拠はないばかりか,それが右譲渡費用に当たるとする具体的な事情につき主張がないから,これを右譲渡費用とすることはできない。

(3) 電話代

原告は,55年分譲渡に係る譲渡費用として,62万1,844円の電話代を支払った旨主張し,原告本人尋問の結果中には,55年分譲渡に係る土地を含む原告所有土地と隣接地との境界をめぐる紛争に関し,交渉や各方面に対する連絡のために昭和55年中に合計62万1,844円の電話代を支払ったとする供述部分があるが,右供述部分を裏付ける証拠がなく,これを直ちに措信し難い上,原告の主張中にも,右供述中にも,その支払ったとする電話代が55年分譲渡に係る譲渡費用であることを認めるに足りる具体的な事情(例えば,通話の日時,相手方の住所,氏名,通話時間,内容等)が提示されていないから,右電話代を右譲渡費用に当たるとすることはできない。

(4) フェンス償却費

原告は,55年分譲渡に係る土地を含む原告所有土地の周囲にめぐらしたフェンスの設置費用の昭和55年分減価償却費15万円が,55年分譲渡に係る譲渡費用に含まれる旨主張するが,原告本人尋問の結果によれば,原告が55年分譲渡及び56年分譲渡に係る土地を含む原告所有土地の周囲にフェンスや看板を設置したこと,その設置の目的は原告所有土地が第三者によって侵食されるのを防ぐためであることが認められ,右事実によれば,右設置の費用は,原告所有土地の保存のための費用と考えられるから,原告所有土地の譲渡費用に当たるとする余地はなく,したがって,右設置の費用の減価償却費が55年分譲渡に係る譲渡費用に該当するということはできない。

(5) 税理士費用

原告は,55年分譲渡に係る譲渡費用として,武政隆三税理士(以下「武政税理士」という。)に対して26万円の税理士費用を支払った旨主張するところ,原告本人尋問の結果によれば,原告が右費用の支出をしたことは認められるが,右尋問結果によれば,右の支出は,原告の所得税の確定申告に係る事務を武政税理士に依頼したことに伴い,その報酬を支払ったものであることも認められ,右事実によれば,右費用が55年分譲渡に係る譲渡費用に該当しないことは明らかである。

(6) 以上によれば,55年分譲渡に係る譲渡費用として譲渡収入金額から控除し得るのは,右(1)のアの18万1,500円のみである。

(三)  原告は,55年分譲渡に係る譲渡収入で,鈴木牧場の清水利春に対する借入金債務,鈴木牧場を主債務者とする原告の東京信用保証協会に対する連帯保証債務及び鈴木牧場の事業資金に充てるために借入れをした原告の和光開発に対する借入金債務の弁済をしたが,鈴木牧場は休業状態で事業再開の見込みがないので右各弁済に伴う求償権を行使できないところ,原告が55年分譲渡をしたのは右各債務の弁済のためであるから,所得税法64条2項,1項により,求償権を行使することができなくなった右各弁済額の合計額4,422万2,600円に相当する金額に対応する部分の所得はなかったものとして,原告に譲渡所得を計算すべきである旨主張する。

しかして,所得税法64条2項,1項は,保証債務を履行するために資産の譲渡があった場合に,その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったときは,譲渡所得のうち,その行使することができないこととなった金額に対応する部分の所得はなかったものとみなす旨を定めるところ,右規定の趣旨は,保証人が,たとえ保証債務の履行をすることとなったとしても,主債務者に対する求償権の行使により最終的負担を免れ得るとの予期の下に保証契約を締結したにもかかわらず,一方では,保証債務の履行を余儀なくされたために資産を譲渡し,他方では,予期に反して求償権を行使することができなくなったというような事態に立ち至った場合に,その資産の譲渡に係る所得に対する課税を求償権が行使できなくなった限度で差し控えようとするものであると解されるから,右規定が適用され得るのは,当該資産の譲渡の原因が,保証債務の履行をするためである場合のほか,少なくともこれと同視し得るような,不可分債務,連帯債務の履行等,他人の債務の履行たる実質を含む自己の債務の負担に基づく場合又は物上保証人に対する担保権の実行,物上保証人による債務弁済等,他人の債務の履行たる実質を有する自己の法律上の責任の負担に基づく場合などに限られるものと解するのが相当である。

しかしところ,原告の主張によれば原告が55年分譲渡に係る譲渡収入で弁済したとする各債務のうち,和光開発に対するものは,鈴木牧場の事業資金に充てるためとはいえ,原告自身の借入元利金債務であるというのであって,当該債務の履行が他人の債務の履行の実質を含むものでないことは明らかであり,また,清水利春に対するものは,鈴木牧場の同人に対する借入元利金債務であるというだけで,当該債務の履行が原告自身の債務又は法律上の責任の負担に基づくものである事実の主張,立証がないから,いずれも所得税法64条2項,1項が適用され得る場合に当たらないのといわなければならない。さらに,鈴木牧場が東京信用保証協会の保証の下に金融機関から借り入れた金員を同信用保証協会が代位弁済することにより生ずべき求償債務につき,原告が同信用保証協会に連帯保証し,55年分譲渡に係る譲渡収入のうち2万円を右連帯保証債務の弁済に充てたことは当事者間に争いがなく,右事実によれば,右弁済は,他人の債務の履行たる実質を含む自己の債務の負担に基づくものといい得るが,55年分譲渡に係る譲渡収入金額が4,821万6,350円であるのに対して右弁済額が2万円であるにすぎないことに照らせば,原告が55年分譲渡をしたのが右保証債務の弁済のためであると認めることはできない。

そうすると,右主張は失当である。

(四)  右(一)ないし(三)によれば,原告の昭和55年分の長期譲渡所得金額は,譲渡収入金額4,821万6,350円から,取得費241万0,817円,譲渡費用18万1,500円及び特別控除額100万円の各金額を差し引いた4,462万4,033円である。

2  昭和56年分

(一)  譲渡収入金額,取得費及び特別控除額

抗弁1の(二)の(1),(2)及び(4)は当事者間に争いがない。

(二)  譲渡費用

(1) 仲介手数料,契約立会礼金及び収入印紙代

抗弁1の(二)の(3)のうち,別表三の二の1ないし3は当事者間に争いがない。

(2) 測量費等

ア 前掲甲第12号証の2,第26号証の1及び3,第67号証の2,乙第6,第7号証,官公署作成部分の成立に争いがなく,原告本人尋問の結果によりその余の部分の成立の真正を認め得る甲第102号証の7,右尋問結果により成立の真正を認め得る甲第25号証の1,第26号証の2,第80号証の2ないし4及び右尋問結果並びに弁論の全趣旨によれば,56年分譲渡に関し,右譲渡に係る土地の測量費及び登記手続費用として,原告が赤塚測量士に対して,①昭和55年12月10日に14万0,800円,②昭和56年1月14日に11万円,③同年6月26日に20万4,600円,④同年12月17日に9万0,400円の合計54万5,800円を支払った事実を認めることができる。右測量等は,56年分譲渡のために要した費用として,右譲渡に係る譲渡所得の計算上,譲渡収入金額から控除すべきである。

イ 原告は,56年分譲渡をするに当たって,赤塚測量士に対して125万6,700円の測量費等を支払った旨主張する。

しかして,前掲甲第67号証の1には,原告が赤塚測量士に対し,56年分譲渡に関して,①昭和56年12月21日請求分として63万6,400円,②同年2月26日分として15万2,300円(ただし,20万4,600円の支払の一部),③同年12月17日送金分として20万円,④昭和55年12月10日売買契約分として14万0,800円,⑤同年12月6日売買契約分として11万円,⑥昭和55年分として2万1,200円,⑦昭和56年11月27日送金分として20万円の合計14万0,700円を支払った旨の記載があるところ,前掲甲第25号証の1,67号証の2,80号証の2及び原告本人尋問の結果によれば,右②は右アの③の支払の一部であること,右④は右アの①と,右⑤は右アの②とそれぞれ同一の支払であることが認められる。しかしながら,右①については,前掲甲第12号証の2によれば,原告が赤塚測量士から63万6,400円の支払請求を受けた事実は認められるが,他方,右甲第12号証の2,前掲甲第12号証の4,第26号証の1及び3,乙第7号証,第12号証の2,原本の存在及びその成立に争いのない乙第12号証の1,原告本人尋問の結果により成立の真正を認め得る甲第12号証の1及び3,弁論の全趣旨により成立の真正を認め得る甲第80号証の1,右尋問結果(後記措信しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨によれば,右63万6,400円の現実の請求の時期は,甲第12号証の2の作成日付にかかわらず,昭和56年11月ころであること,右63万6,400円は,右アの④の56年分譲渡に係る測量等の費用9万0,400円と後記3の(二)の(4)の57年分譲渡等に係る譲渡費用である道路舗装費用の一部(河川法に基づく土地の形状変更許可申請手続に係る費用)54万6,000円との合計額であること,原告は,昭和56年11月27日に右54万6,000円のうちの20万円を支払い,同年12月17日に右54万6,000円のうちの10万9,600円と右9万0,400円との合計額20万円を支払い,昭和57年1月27日に右54万6,000円の残金23万6,400円を支払ったことが認められ(原告本人尋問の結果中,右認定に反する部分は措信し難い。),したがって,右①のうちの,右アの④の9万0,400円に相当する部分を除くその余の部分は,56年分譲渡に係る譲渡費用ではない。また,右の事実によれば,右③の昭和56年12月17日送金に係る20万円及び右⑦の同年11月27日送金に係る20万円はいずれも,右63万6,400円の請求に係る支払の一部を重複して掲記したものであることが明らかであるから,右③のうちに含まれる右アの④の9万0,400円に相当する部分を除くその余の部分は,56年分譲渡に係る譲渡費用に当たらない。さらに,前掲甲第25号証の2及び弁論の全趣旨によれば,右⑥は右1の(二)の(1)のアの②と同一の支払であることが認められるから,56年分譲渡に係る譲渡費用には当たらないことは明らかである。

そうすると,原告の右主張に係る支払額は,右アの支払額を超えては,56年分譲渡に係る譲渡費用ではないということができる。

(3) 交通費

原告は,56年分譲渡に係る譲渡費用として,7万8,600円の交通費を支出した旨主張するが,原告本人尋問の結果中,右主張に沿う部分は極めて曖昧で具体性に欠けるし,それが右譲渡費用に当たるとする具体的な事情について主張もないから,これを右譲渡費用とすることはできない。

(4) 司法書士費用(河島司法書士分)

原告は,56年分譲渡に係る土地についての住所変更登記及び担保権抹消登記手続費用として,河島繁志司法書士(以下「河島司法書士」という。)に対し8万6,600円を支払った旨主張する。

しかして,原告本人尋問の結果により成立の真正を認め得る甲第77号証の2ないし6,8ないし13,弁論の全趣旨により成立の真正を認め得る甲第48号証の1及び弁論の全趣旨によれば,原告が河島司法書士に対し,昭和55年12月10日に表示変更登記手続費用として1万1,000円を,昭和56年1月14日に表示変更登記手続費用として1万0,700円を,同年6月17日に登記簿謄本交付手続費用として6,100円を,同年7月8日に抹消登記手続費用等として3万6,000円を,同年10月20日に何らかの費用として6,100円を,同年12月に表示変更手続費用として9,100円を,昭和61年9月20日に表示変更登記及び所有権移転登記手続費用等として5万9,500円をそれぞれ支払ったこと(合計13万8,500円)を認めることができるものの,右各支払が56年分譲渡に係る土地についての住所変更登記又は担保権抹消登記の手続費用,その他右譲渡のために要した費用の支出であるとの点については,原告本人尋問の結果中のこれに沿う部分は甚だ曖昧で具体性に欠けるし,56年分譲渡に係る譲渡費用に当たるとする具体的な事情(例えば,土地や登記内容の特定,登記日時等)について主張もないから,これを右譲渡費用とすることはできない。

(5) 司法書士費用(桝田司法書士分)

原告は,56年分譲渡に係る土地の買主がその買受代金を借り入れるために設定した根抵当権設定登記手続費用を原告が負担したものとして,桝田慶一司法書士(以下「桝田司法書士」という。)に対し18万9,700円を支払った旨主張する。

しかして,原告本人尋問の結果により成立の真正を認め得る甲第27号証の1ないし3,弁論の全趣旨により成立の真正を認め得る甲第96号証の5及び弁論の全趣旨によれば,原告が桝田司法書士に対し,昭和54年8月8日に共同担保権設定登記手続費用として7万0,200円を,昭和56年1月8日に共同根抵当権設定登記手続費用として4万0,700円を,同年7月16日に住所変更登記及び根抵当権設定登記手続費用として8万1,150円を,同年8月19日に住所変更手続費用等として6万7,850円をそれぞれ支払った事実(合計25万9,900円)を認めることができるものの,原告本人尋問の結果中の,右の各支払が56年分譲渡に係る土地につきその買主の設定した根抵当権設定登記の登記手続費用の支出であるとの供述部分は措信し難いのみならず,仮にこの事実が認められたとしても,これのみをもってしては,右費用が56年分譲渡に係る譲渡費用に当たるものとはいえないし,その他右費用が56年分譲渡に係る譲渡費用に当たるとする具体的な事情の主張もないから,これを右譲渡費用とすることはできない。

(6) 司法書士費用(山村司法書士分)

原告は,56年分譲渡に係る土地の分筆登記手続費用として,山村新一司法書士(以下「山村司法書士」という。)に対し10万0,740円を支払った旨主張する。

しかして,原告本人尋問の結果により成立の真正を認め得る甲第77号証の14ないし17及び20並びに弁論の全趣旨によれば,原告が山村司法書士に対し,昭和56年1月6日に根抵当権一部抹消手続費用とし1万9,650円を,同月23日に抵当権一部抹消登記及び賃借権仮登記一部抹消登記手続費用等として3万8,690円を,同年5月11日に住所変更登記及び根抵当権抹消登記手続費用として4万2,400円をそれぞれ支払った事実(合計10万0,740円)を認めることができるが,山村司法書士に対し56年分譲渡に係る土地の分筆登記手続費用の支払をした事実を認めるに足りず,右の支払額が原告の主張額に一致するところから考えると,原告の主張額の支払は,右分筆登記手続費用としての支払ではなかったものと考えられる。しかしながら,右(一)の争いのない事実に右甲第77号証の14及び15,官公署作成部分の成立に争いがなく,原告本人尋問の結果によりその余の部分の成立の真正を認め得る甲第102号証の8及び弁論の全趣旨を併せ考えれば,山村司法書士は,昭和56年5月7日に原告を代理して,原告が同日譲渡した別表二の二の2記載の5筆の土地を含む8筆の土地の土地について所有権登記名義人表示変更(原告の住所の変更)の登記申請をしたこと,原告が昭和56年5月11日に山村司法書士に支払った4万2,400円は,右表示変更登記申請に係る登録免許税8,000円及び報酬7,700円(合計1万5,700円),根抵当権抹消登記(2口)の申請に係る登録免許税1万6,000円及び報酬9,200円(合計2万5,200円),旅費等300円,委任状印紙代400円並びに郵送料800円の総合計であることが認められるから,このうち,表示変更登記申請に係る費用の合計1万5,700円の8分の5に当たる9,813円と,旅費等,委任状印紙代及び郵送料の合計1,500円を右表示変更登記の申請に係る費用(合計1万5,700円)と根抵当権抹消登記の申請に係る費用(合計2万5,200円)とで按分した前者の費用相当分の576円の8分の5に当たる360円との合計1万0,173円は,別表二の二の2記載の譲渡に関し,譲渡に伴う所有権移転登記手続の前提となる登記手続に係る費用であると推認することができ,56年分譲渡に係る譲渡費用に当たるものというべきである。原告の山村司法書士に対する右各支払のうちのその余の部分については,それが56年分譲渡に係る譲渡費用の支出に該当することについては,それが56年分譲渡に係る譲渡費用の支出に該当することについては具体的な事情の主張がないので,右譲渡費用に当たるとすることはできない。

(7) 土地改良区支払金

原告は,56年分譲渡に係る譲渡費用として,土地改良区支払金5,885円を支出した旨主張するところ,成立に争いのない甲第101号証の27ないし29及び原告本人尋問の結果によれば,原告は,竜洋町土地改良区湛水賦課金として,昭和56年2月26日に,昭和55年度第1期分3,695円及び同第2期分2,190円合計5,885円を,また,昭和56年12月24日に昭和56年度第1,第2期分5,020円をそれぞれ支払ったことを認めることができるが,右土地改良区の湛水賦課金が56年分譲渡に係る譲渡費用に該当することを根拠づける具体的な事情につき主張がないから,これを右譲渡費用とすることはできない。

(8) 道路舗装代手付金及び菓子代

原告は,56年分譲渡に係る譲渡費用として,道路舗装代手付金180万円及び道路舗装工事に当たって境界査定に立ち会った隣人に対する謝礼の菓子代1,000円を支出した旨主張する。

しかして,原告が,静岡県磐田郡竜洋町豊岡字西堀(以下,単に「字西堀」という。)6029番2先から同所6055番3先までの天竜川左岸の河川区域内の土地について,昭和56年11月16日に道路及び通行路の設置を目的とする河川法27条に基づく土地形状変更許可を取得し,右許可に係る道路及び通行路の設置のための道路舗装工事等を高栄産業株式会社(以下,「高栄産業」という。)に受け負わせて同月末ころから施行させ,昭和57年2月8日に完成認定を受けたこと,昭和56年11月26日に右工事代金等の一部として180万1,000円を高栄産業に支払ったことは,後記3の(二)の(4)のとおりであり,また,原告本人尋問の結果により成立の真正を認め得る甲第9号証の1によれば,右工事の完成により,56年分譲渡に係る土地のうち,大橋三尾に譲渡した字西堀6034番2,同所6035番3,同番4,同所6036番6,同番8の各土地は,右道路及び通行路に面するに至ったことが認められる。しかしながら,原告が右土地形状変更許可を取得して道路舗装等の工事を開始したのは,原告が右各土地を大橋三尾に譲渡した昭和56年5月7日から半年余りも後であることに照らすと,右道路及び通行路の設置は右各土地の譲渡のためにされたものとはいえず,また,原告本人尋問の結果中の,右道路及び通行路の設置が大橋三尾との約束に基づくものであるとする部分もにわかに措信し得ない。そして,他に,右道路及び通行路の設置が56年分譲渡のためにされたことを根拠づける具体的な事情の主張もないから,右180万1,000円が56年分譲渡に係る譲渡費用に当たるとすることはできない。

(9) 送料

前掲甲第26号証の3,第77号証の14,第80号証の3によれば,原告は,赤塚測量士に対して,右(2)のアの①の費用を支払った際に,その振込手数料として500円を支出したこと,また,同④の費用9万0,400円を含む20万円を支払った際,その振込手数料として600万円を支出したこと,さらに,山村司法書士に対して,右(6)の費用中の1万0,173円を含む4万2,400円を支払った際,その振込手数料として600円を支出したことをそれぞれ認めることができるので,右(2)のアの①に係る振込手数料500円,同④に係る振込手数料のうち271円(600円に20万分の9万0,400を乗じたもの)及び右(6)に係る振込手数料のうち144円(600円に4万2,400分の1万0,173を乗じたもの)との合計額915円は56年分譲渡に係る譲渡費用と認めるべきである。

原告は,56年分譲渡に係る譲渡費用の振込手数料として合計4,600円を支出した旨主張するが,原告本人尋問の結果中,56年分譲渡に係る譲渡費用の振込手数料として右915円を超える金額については,これを支出したとする供述部分は,これを裏付けるに足りる的確な証拠がないし,右金額に関する右振込手数料がどの譲渡費用の送金に係るものであるといった事情について主張もないので,右金額を右譲渡費用とすることはできない。

(10) 弁護士費用

原告は,56年分譲渡に係る譲渡費用として,7万円の弁護士費用を支払った旨主張するが,原告本人尋問の結果中の原告が弁護士に右金員を支払ったとの供述部分は直ちに措信し難いのみならず,仮に原告が弁護士に右金員を支払ったとしても右金員が56年分譲渡に係る譲渡費用に当たるとする具体的な事情の主張がないので,それを右譲渡費用とすることはできない。

(11) 税理士費用

原告は,56年分譲渡に係る譲渡費用として,武政税理士に対して26万円の税理士費用を支払った旨主張するところ,原告本人尋問の結果によれば,原告が右費用の支出をしたことは認められるが,右尋問結果によれば,右の支出は,原告の所得税の確定申告に係る事務を武政税理士に依頼したことに伴い,その報酬を支払ったものであることも認められ,右事実によれば,右費用が56年分譲渡に係る譲渡費用に該当しないことは明らかである。

(12) 電話代

原告は,56年分譲渡に係る譲渡費用として,64万6,315円の電話代を支払った旨主張する。そして,成立に争いのない甲第58号証の1ないし3,4の1及び4の2,5ないし8,9の1及び9の2並びに10ないし12によれば,原告が昭和56年中に支払った電話代の合計が64万6,315円であることを認めることができる(もっとも,右甲第58号証の1,2及び弁論の全趣旨によれば,昭和56年1月12日に支払った3万8,830円は昭和55年中の分の基本料,通話料及び電報料に係るものであること,昭和56年2月17日に支払った4万0,085円中には,昭和55年中の分に係る基本料,通話料及び電報料が含まれていることが認められまた,成立に争いのない甲第58号証の13及び弁論の全趣旨によれば,原告が昭和57年1月14日に支払った5万6,170円は昭和56年中の分の基本料,通話料及び電報料に係るものであることが認められる。)が,右証拠中にも,原告の主張中にも,右電話代が56年分譲渡に係る譲渡費用であることを認めるに足りる具体的事情が示されていないから,右電話代を右譲渡費用に当たるとすることはできない。

(13) 雑費

原告は,56年分譲渡に係る譲渡費用として,23万6,475円の雑費を支出した旨主張するが,その支出の事実を認めるに足りる証拠がないのみならず右費用の具体的な内容を明らかにする主張すらないから,右雑費を右譲渡費用に当たるとすることはできない。

(14) フェンス償却費

原告は,56年分譲渡に係る土地を含む原告所有土地の周囲にめぐらしたフェンスの設置費用の昭和56年分減価償却費15万円を,56年分譲渡に係る譲渡費用に当たる旨主張するところ,右1の(二)の(4)と同様の理由で,右減価償却費は,56年分譲渡に係る譲渡費用に該当するということはできない。

(15) 道路敷地損害分

原告は,原告所有土地を56年分譲渡に係る土地のための道路用地に供したとし,その使用損害金を285万円として,これが56年分譲渡に係る譲渡費用に当たる旨主張するところ,仮に原告がその所有土地を譲渡に係る土地のための道路用地に供し,それがため右土地が使用できなかったとしても,そのことによる原告の損失が原告の所有土地の譲渡に係る譲渡費用に該当するということはできない。

(16) 売却土地の時価との差額相当分

原告は,原告所有土地273.9m2を56年分譲渡に係る土地の道路用地に供し,これを昭和61年に3.3m2当たり3万円で他に譲渡したとし,かつ,譲渡時の時価は3.3m2当たり9万円であるとして,右譲渡価額と時価との差額相当額498万円を56年分譲渡に係る譲渡費用に当たる旨主張するところ,仮に,原告がその所有土地を譲渡に係る土地のための道路用地に供し,それがため時価を下回る価格で他に譲渡することとなったとしても,その譲渡価額と時価との差額をもって,当初の土地の譲渡に係る譲渡費用に該当するということはできない。

(17) 以上によれば,56年分譲渡に係る譲渡費用として譲渡収入金額から控除し得る金額は,右(1)の合計60万0,400円,右(2)のアの54万5,800円,右(6)の1万0,173円及び右(9)の915円を合計した115万7,288円である。

(三)  原告は,56年分譲渡に係る譲渡収入で,鈴木牧場の事業資金に充てるために借入れをした原告の和光開発に対する借入金債務の弁済をしたが,鈴木牧場は休業状態で事業再開の見込みがないので右弁済に伴う求償権を行使できないところ,原告が56年分譲渡をしたのは右債務の弁済のためであるから,所得税法64条2項,1項により,求償権を行使することができなくなった右弁済額2,342万8,590円に相当する金額に対応する部分の所得はなかったものとして,原告の譲渡所得を計算すべきである旨主張する。

しかしながら,所得税法64条2項,1項が適用され得るのは,当該資産の譲渡の原因が,保証債務の履行をするためである場合のほか,少なくともこれと同視し得るような,不可分債務,連帯債務の履行等,他人の債務の履行たる実質を含む自己の債務の負担に基づく場合又は物上保証人に対する担保権の実行,物上保証人による債務弁済等,他人の債務の履行たる実質を有する自己の法律上の責任の負担に基づく場合などに限られると解すべきことは右1の(三)のとおりであるところ,原告の主張によれば,和光開発に対する右債務は,鈴木牧場の事業資金に充てるためとはいえ,原告自身の借入元利金債務であるというのであって,当該債務の履行が他人の債務の履行の実質を含むものでないことは明らかであり,右主張は失当である。

(四)  右(一)ないし(三)によれば,原告の昭和56年分の長期譲渡所得金額は,譲渡収入金額3,360万円から,取得費168万円,譲渡費用115万7,288円及び特別控除額100万円の各金額を差し引いた2,976万2,712円である。

3  昭和57年分

(一)  譲渡収入金額,取得費及び特別控除額

抗弁1の(三)の(1),(2)及び(4)は当事者間に争いがない。

(二)  譲渡費用

(1) 仲介手数料及び収入印紙代

抗弁1の(三)の(3)のうち,別表三の三の1及び3は当事者間に争いがない。

(2) 印鑑証明等手数料

原本の存在及びその成立に争いのない乙第8号証の1ないし6,第9号証の1,2及び4ないし16並びに弁論の全趣旨によれば,原告は,57年分譲渡をするに当たって必要な住民票及び印鑑登録証明書の交付手数料として合計8,200円を支払ったことを認めることができ,右費用は,57年分譲渡に要した費用として,右譲渡に係る譲渡所得の計算上,譲渡収入金額から控除すべきである。

原告は,57年分譲渡をするに当たって必要な住民票及び印鑑登録証明書等の交付手数料として合計1万4,010円を支払った旨主張するところ,右の8,200円を超える印鑑証明書等の交付手数料については,原告本人尋問の結果中これを支払ったとする部分はこれを裏付けるに足りる証拠がないのみならず,右印鑑証明書等を57年分譲渡に当たって必要とした事情など具体的な事情の主張がないから,右交付手数料を57年分譲渡に係る譲渡費用とすることはできない。

(3) 交通費

成立に争いのない乙第10号証の1ないし3,5,7ないし9及び17,原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば,原告は,57年分譲渡をするに当たって,その住所地である東京都と57年分譲渡に係る土地の所在する静岡県磐田郡竜洋町とを8回往復するに要した交通費(鉄道運賃,タクシー代及びバス代)として,合計17万6,580円を支出したことを認めることができ,右費用は,57年分譲渡のために要した費用として,右譲渡に係る譲渡所得の計算上,譲渡収入金額から控除すべきである。

原告は,57年分譲渡をするに当たって,交通費として合計25万2,360円を支出した旨主張するところ,右の17万6,580円を超える交通費については,原告本人尋問の結果中これを支出したとする供述部分は極めて曖昧で具体性に欠けるし,それが57年分譲渡に係る譲渡費用に当たるとする具体的な事情について主張もないから,これを右譲渡費用とすることはできない。また,右乙第10号証の1ないし3,5,7ないし9及び17に記載のある食事代,弁当代,お茶代,おみやげ代等の費用は,仮に原告がこれを支出したものとしても,57年分譲渡に係る譲渡費用とする理由はないし,さらに,成立に争いのない乙第10号証の4,6及び10ないし16に記載のある電車代,バス代,バス回数券,地下鉄代,運賃等の費用は,仮に原告がこれらを支出したとしても,具体的な事情の主張がない以上,これを57年分譲渡に係る譲渡費用とすることができないことは右に述べたと同様である。したがって,原告主張の交通費のうち,17万6,580円を超える部分は,57年分譲渡に係る譲渡費用とするわけにはいかない。

(4) 道路舗装費用

右2の(二)の(2)のイで認定した事実に,前掲甲第9号証の1,成立に争いのない甲第8号証の2ないし4,第19号証,原本の存在及びその成立に争いのない乙第4号証の2,第11号証の1ないし3,原告本人尋問の結果により成立の真正を認め得る甲第24号証の2,第114号証の1,原告本人尋問の結果により原本の存在及びその成立の真正を認め得る甲第114号証の3,弁論の全趣旨により成立の真正を認め得る乙第5号証,原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると,原告は,昭和56年11月11日,河川法27条1項に基づき,建設省中部地方建設局長に対し,字西堀6029番2先から同所6055番3先までの天竜川左岸の河川区域内の土地につき,延長234.4m,幅員6mで,4m幅のアスファルト舗装をした道路及び延長92.8m,幅員6mの通行路をそれぞれ設置することを内容とする土地形状変更許可申請をし,同月16日にその旨の許可を受けたこと,原告は,右許可申請に係る道路舗装等の工事を高栄産業に請け負わせて,同月末ころから施行させ,昭和57年2月8日に建設省浜松工事事務所長の完成認定を受けたこと,原告は,右土地形状変更申請に係る費用として,赤塚測量士に対し,昭和56年11月27日に20万円,同年12月17日に10万9,600円,昭和57年1月27日に23万6,400円の合計54万6,000円を支払い,また,右工事代金等として,高栄産業に対し,昭和56年11月26日に180万円1,000円,昭和57年1月下旬ころに180万円,同年2月17日に180万円の合計540万1,000円を支払ったこと,右道路及び通行路は,57年分譲渡に係る土地及び昭和58年に原告が他に譲渡した723m2の土地に面しており,57年分譲渡と右昭和58年の土地の譲渡のために設置したものであることを認めることができる。

そうすると,原告が赤塚測量士に支払った右594万6,000円と高栄産業に支払った右540万1,000円との合計額59万7,000円は,57年分譲渡及び原告の昭和58年分の土地の譲渡のために要した費用として,右各譲渡に係る譲渡所得の計算上,譲渡収入金額から控除すべきであり,57年分譲渡に係る控除額は,右594万7,000円を譲渡に係る土地の面積比(57年分譲渡に係る土地1810.5m2,昭和58年分の譲渡に係る土地723m2)で按分した424万9,870円とするのが相当である。

(5) 測量費等

原告は,57年分譲渡に係る譲渡費用として,①有限会社小池鉄工所に売却した土地の分筆のための測量費等として8万円を,②芦川亘男に売却した土地の分筆のための測量費等として2万9,000円を,③鈴木牧場の従業員山下秀夫に譲渡した土地の境界確定のための測量費等として8万8,600円を,それぞれ赤塚測量士に支払い,また,④有限会社豊田金網工業所に売却した土地の測量費等として8万5,000円を支出した旨主張する。

しかして,右①及び②の主張について,前掲甲第67号証の1及び2,乙第6号証並びに弁論の全趣旨によれば,原告が赤塚測量士に対し,昭和57年8月5日に8万円を,同年9月8日に2万9,000円を支払っていることが認められるが,右各支払が,57年分譲渡のうちの有限会社小池鉄工所又は芦川亘男に対する譲渡土地(別表二の三の1又は2の各土地)に係る測量費等であるとの点に関しては,原告本人尋問の結果中これに沿う供述部分は,右乙第6号証の右各支払に係る測量場所(地番)が字西堀6069番と記載されていることに照らして措信し難いだけでなく,右乙第6号証によると,右譲渡土地の測量費等でないものと認められる。また,右④の主張については,原告本人尋問の結果中の原告が右主張に係る費用を支出したとする供述部分を直ちに措信できないし,この費用を誰に支払ったのであるかすら主張されていないので,右費用の支出はなかったものとせざるを得ない。さらに,右③の主張については,仮に原告が右主張に係る費用を支出したとしても,それが57年分譲渡のために要した費用の支出に該当するものではないことは主張自体から明らかである。

そうすると,原告の右各主張に係る支払額を57年分譲渡に係る譲渡費用とすることはできない。

(6) 司法書士費用

原告は,57年分譲渡に係る譲渡費用として,①有限会社小池鉄工所に売却した土地に係る登記手続費用として10万0,050円を河島司法書士に,②有限会社小池鉄工所又は有限会社豊田金網工業所に売却した土地に係る住所変更登記費用として2万6,500円を鈴木学司法書士(以下「鈴木司法書士」という。)に,③有限会社豊田金網工業所に売却した土地に係る抵当権設定登記抹消登記手続費用として8万円を鈴木司法書士に,それぞれ支払った旨主張する。

しかしながら,右①及び②の主張については,原告本人尋問の結果中の原告が右主張に係る費用を支出したとする供述部分は,これを裏付ける他の証拠が全くないことに照らし借信できないし,登記の内容等具体的な事情の主張も立証もないことに鑑みると,右主張に係る費用を57年分譲渡に係る譲渡費用とすることはできない。また,右③の主張については,原告本人尋問の結果により成立の真正を認め得る甲第92号証の1,2によれば,原告が昭和58年1月に鈴木司法書士に対し措地権,抵当権及び根抵当権の抹消登記手続費用として8万円を支払った事実を認めることができるけれども,右の抹消登記手続が57年分譲渡のうちの有限会社豊田金網工業所に売却した土地に係るのもであるとの点に関しては,原告本人尋問の結果中これに沿う部分は直ちに措信し難く,他にこの点を認めるに足りる証拠はないのみならず,右の抹消登記手続が57年分譲渡のため必要であった事情について主張もないから,右支払額を57年分譲渡に係る譲渡費用に該当するということはできない。

(7) 送料

前掲甲第26号証の3,第80号証の1,第114号証の1,乙第11号証の2,乙第12号証の1によれば,原告は,右(4)の赤塚測量士に対する昭和56年11月27日の20万円の支払いの際に800円の,同年12月17日の10万9,600円の支払いの際に329円(右10万9,600円と右2の(二)の(2)のアの④の9万0,400円との合計額20万円の送金に係る振込手数料600円から右2の(二)の(9)の271円控除したもの)の,昭和57年1月27日の23万6,400円の支払いの際に800円の各振込手数料を,また,右(4)の高栄産業に対する昭和56年11月26日の180万1,000円の支払いの際に800円の,昭和57年1月下旬ころの180万円の支払いの際に800円の各振込手数料を,それぞれ支出していることが認められるので,右合計3,529円を,57年分譲渡に係る土地と右(4)の原告が昭和58年にした譲渡土地との面積比で按分した2,522円は,57年分譲渡のために要した費用として,右譲渡に係る譲渡所得の計算上,譲渡収入金額から控除すべきである。

原告は,57年分譲渡に係る譲渡費用の振込手数料として合計7,220円を支出した旨主張するが,57年分譲渡に係る譲渡費用の振込手数料として右2,522円を超える金額については,原告本人尋問の結果中これを支出したとする供述部分は,これを裏付けるに足りる証拠がないし,右金額に関する振込手数料がどの譲渡費用の送金に係るものであるといった事情について主張もないので,右金額を右譲渡費用とすることはできない。

(8) 借入利息

原告は,57年分譲渡に係る譲渡費用として,①昭和56年及び昭和57年に支出した道路舗装工事費540万円を和光開発から借り入れ,その利息として右各年に和光開発に合計400万8,960円を支払い,②原告所有土地と国(建設省)所有の隣地との境界紛争に係る交渉の費用として和光開発から300万円を借り入れ,その利息として昭和55年ないし昭和57年に和光開発に合計28万6,000円を支払った旨主張する。

しかして,右①につき,原告が昭和56年及び昭和57年に道路舗装工事費として,高栄産業に対し合計540万余円を支払ったことは右(4)のとおりであるが,原告が右支払に係る金員を和光開発から借り入れ,その利息として右各年に合計400万8,960円を支払ったことを審らかにする証拠はないのみならず,一般に,所有土地を譲渡する際に,その譲渡費用となるべき金員を他から借り入れたことに伴って支出した利息金までが当該譲渡のために要した費用に当たるとはいえないから,仮に原告が右借入れをして,右利息金の支払いをしたものとしても,右利息金をもって,57年分譲渡に係る譲渡費用に当たるとすることはできない。また,右②については,原告が右(4)の道路及び通行路の敷地である河川区域内の土地を自己の所有に係るものと主張していることは後記(12)のとおりであり,原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば,右土地を国有地であるとする国(建設省)との間に紛争があることが窺えるが,右紛争に係る交渉費用自体が57年分譲渡のために要した費用に当たらないことは明らかであり,したがって,右交渉費用を他から借り入れたことに伴って支出した利息金が57年分譲渡に係る譲渡費用に該当するものと解する余地はない。

(9) 柵等設備費用,中元代等,寄付金等,国定資産税,火災保険料

原告は,57年分譲渡に係る譲渡費用として,①原告所有土地の周囲に設置した柵,フェンス,看板,駐車場看板等の設置費用62万5,250円,②関係各方面に対する中元代等20万5,740円,③日赤その他に対する寄付金等8万3,274円,④原告所有土地に対する国定資産税5万6,390円,⑤原告所有建物の火災保険料8,640円をそれぞれ支出した旨主張するが,右の各支出に係る費用等が,57年分譲渡に係る譲渡費用に当たるとすることを理由づける具体的な事情の主張がないから,仮に原告が右各支出をしたものとしても,右費用等を右譲渡費用に該当するとするわけにはいかない。

(10) 税理士費用

原告は,57年分譲渡に係る譲渡費用として,武政税理士に対して26万円の税理士費用を支払った旨主張するところ,原告本人尋問の結果によれば,原告が右費用の支出をしたことは認められるが,右尋問結果によれば,右の支出は,原告の所得税の確定申告に係る事務を武政税理士に依頼したことに伴い,その報酬を支払ったものであることも認められ,右事実によれば,右費用が57年分譲渡に係る譲渡費用に該当しないことは明らかである。

(11) 電話代,通信事務費,事務費

原告は,57年分譲渡に係る譲渡費用として,電話代48万4,290円,通信事務費11万0,810円及び事務費2万0,210円をそれぞれ支出した旨主張するが,原告が右各支出をしたことを認めるに足りる証拠がないのみならず,右各支出に係る電話代等が右譲渡費用であるとする具体的な事情の主張がないから,右電話代等を右譲渡費用に当たるとすることはできない。

(12) 寄付道路用地時価相当額

原告は,自己所有土地を道路用地として竜洋町に寄付したとし,かつ,右寄付に係る土地の時価相当額は3,600万円であるとして,右時価相当額が57年分譲渡に係る譲渡費用である旨主張する。

しかして,原告本人尋問の結果中には,右(4)の道路及び通行路の敷地とした字西堀6029番2先から同所6055番3先までの土地は原告所有地であり,右土地に原告が道路及び通行路を設置した後,これを竜洋町に寄付したとする供述部分があるが,右(4)の事実に前掲乙第5号証,成立に争いのない甲第8号証の1,弁論の全趣旨により成立の真正を認め得る乙第4号証の1を併せ考えると,道路及び通行路の敷地である右土地は天竜川の河川区域内の土地であり,原告は道路及び通行路を設置するに当たり,建設省中部地方建設局長に対し,河川法27条1項に基づく土地形状変更許可申請を行って右許可を得ていること,竜洋町は原告から構造物としての道路及び通行路との部分のみ寄付採納する処理をし,その敷地である右土地については,同局長に対する河川法24条に基づく河川占用許可申請をして右許可を得ていることが認められ,かかる事実及び一般に河川区域内の土地はほとんどが国有地であることに照らせば,原告本人尋問の結果中の右部分はたやすく措信し難く,かえって,右土地は原告の所有に属するものではなく,原告は構造物としての道路及び通行路のみを竜洋町に寄付したと解されるから,原告主張の右金額を57年分譲渡に係る譲渡費用とすることはできない。

(13) 以上によれば,57年分譲渡に係る譲渡費用として譲渡収入金額から控除し得る金額は,右(1)の合計198万2,000円,右(2)の8,200円,右(3)の17万6,580円,右(4)の424万9,870円,右(7)の2,522円を合計した641万9,172円である。

(三)  右(一)及び(二)によれば,原告の昭和57年分の長期譲渡所得金額は,譲渡収入金額6,164万7,000円から,取得費308万2,350円,譲渡費用641万9,172円及び特別控除額100万円の各金額を差し引いた5,114万5,478円である。

4  昭和59年分

(一)  譲渡収入金額

(1) 成立に争いのない甲第59号証,乙第3号証,原告本人の尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,別表二の四の1の土地を昭和37年から昭和43年までの間に取得したこと,原告は,昭和52年より,所有不動産に根抵当権を設定して,和光開発から,利息日八銭七厘の約定で数次にわたる金員の借入れを行っていたところ,昭和58年12月ころ,原告を代理した川又次男弁護士(以下「川又弁護士」という。)が,和光開発に対し,原告の支払った利息のうち利息制限法所定の利息を超える部分を元本に充当すると,その当時の借入金元本残高合計700万円は既に消滅しており,原告の過払い金が生じているとして,過払い金の返還及び根抵当権設定登記の抹消を申し入れ,和光開発と話し合った結果,同月五日,原告が和光開発から新たに500万円を借り受け,右700万円と併せて借入金元本額が合計1,200万円となることを認めるが,和光開発は,当時原告が設定していた別表二の四の1の土地についての根抵当権を実行することにより右貸付金債権を回収し,残余の原告の債務は免除すること等を内容とする和解契約を一旦締結し,さらに,昭和59年2月24日,原告の代理人である川又弁護士と和光開発とは,東京簡易裁判所において,原告が和光開発に対し借入金元本債務1,200万円及び遅延損害金債務の支払義務があることを認めたこと,原告が和光開発に対し,別表二の四の1の土地を同年1月20日に右元金残債務1,200万円に対する代物弁済としたことをそれぞれ確認し,和光開発は原告に対し,右遅延損害金債務を免除し,原告と和光開発とは,他に債権債務のないことを相互に確認することを内容とする裁判上の和解をしたことを認めることができる。

なお,原告本人尋問の結果中には,原告が和光開発に対する過払い金債権を有することを川又弁護士が知らなかったために,右裁判上の和解をしたものであって,右裁判上の和解は原告の意に沿わないものであるとの供述部分があるが,にわかにこれを措信することはできないし,仮に,川又弁護士が右事実を知らなかったとしても,そのことにより右裁判上の和解の効力が直ちに左右されるものではない。

また,原告は,原告の和光開発に対する債務は,右代物弁済時までに,原告の弁済により消滅していたので,右代物弁済契約は無効である旨主張するが,右認定のとおり,和光開発に対する借入金債務の消滅を主張する原告と和光開発との間の和解契約により,原告が和光開発に対する700万円の借入金債務の存在を承認した上,右債務と原告が新たに和光開発から借り増した500万円の借入金債務とを対象として右代物弁済契約が締結されたものであって,右和解契約により,原告の和光開発に対する合計1,200万円の借入金債務の存在は確定したものというべきであるから,原告の右主張は失当である。

(2) 右事実関係に照らせば,原告は,昭和37年から昭和43年までの間に取得した別表二の四の1の土地を,昭和59年中に和光開発に対する借入金債務1,200万円の代物弁済として,和光開発に譲渡したものであって,右代物弁済により消滅した債務額1,200万円と同額の譲渡収入が生じたものというべきである(原告は,代物弁済契約による土地の譲渡については,代金の授受がないので譲渡収入が生じない旨主張するが,資産の所有者が当該資産を債務の代物弁済に供すれば,当該債務の消滅または減少という経済的利益を得るのであるから,代物弁済契約が資産の有償譲渡に当たることは明らかであり,資産の所有者には,代物弁済により消滅又は減少した債務の額と同額の譲渡収入が生じたものというべきである。)。

(二)  取得費

措置法31条の4第1項(昭和63年法律第4号による改正前のもの)に準じて,右譲渡収入金額に100分の5を乗じて算出した60万円を別表二の四の1の土地の取得費と認めるべきである。

(三)  特別控除額

措置法31条3項(昭和62年法律第96号による改正前のもの)により,100万円である。

(四)  右(一)ないし(三)によれば,

原告の昭和59年分の長期譲渡所得金額は,譲渡収入金額1,200万円から,取得費60万円及び特別控除額100万円の各金額を差し引いた1,040万円である。

四  右一及び三によれば,

1  55年分更正,56年分更正及び57年分更正に係る各長期譲渡所得金額は,いずれも右三の1ないし3の右各年分の原告の各長期譲渡所得金額の範囲内であり,また,59年分所得税の決定に係る長期譲渡所得金額は,右三の4の昭和59年分の原告の長期譲渡所得金額と同額であるから,55年分更正,56年分更正及び57年分更正ならびに59年分所得税の決定は適法である。

2(一)  55年分更正に基づいて原告が納付すべき税額は857万5,000円(昭和59年法律第5号による改正前の国税通則法118条3項により1,000円未満の端数切捨て)であるから,右改正前の同項65条1項により右税額に100分の5の割合を乗じて算出した過少申告加算税の額42万8,700円(右改正前の同法119条4項により100円未満の端数切捨て)を賦課した55年分賦課決定は適法である。

(二)  56年分更正に基づいて原告がさらに納付すべき税額は475万7,000円(昭和59年法律第5号による改正前の国税通則法118条3項により1,000円未満の端数切捨て)であるから,右改正前の同法65条1項により右税額に100分の5の割合を乗じて算出した過少申告加算税の額23万7,800円(右改正前の同法119条4項により100円未満の端数切捨て)を賦課した56年分賦課決定は適法である。

(三)  57年分更正に基づいて原告がさらに納付すべき税額は978万1,000円(昭和59年法律第5号による改正前の国税通則法118条3項により1,000円未満の端数切捨て)であるから,右改正前の同法65条1項により右税額に100分の5の割合を乗じて算出した過少申告加算税の額48万9,000円(右改正前の同法119条4項により100円未満の端数切捨て)を賦課した57年分賦課決定は適法である。

(四)  59年分所得税の決定に基づいて原告が納付すべき税額は201万円(国税通則法118条3項により1万円未満の端数切捨て)であるから,昭和62年法律第96号による改正前の同法66条1項により右税額に100分の10の割合乗じて算出した無申告加算税の額20万1,000円を賦課した59年分賦課決定は適法である。

五  以上によれば,原告の本訴請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法89条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木康之 裁判官 石原直樹 裁判官 深山卓也)

〈以下省略〉

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